中小企業で10年ほど経理をやっていた頃、毎月必ず作っていたのが資金繰り表です。
最初に上司から「来月から資金繰り表も担当して」と言われたときは、正直ちょっと構えました。なんだか難しそうだし、数字をたくさん扱うし。でも実際にやってみると、基本の仕組みはかなりシンプルでした。
前月の残高に、入ってくるお金を足して、出ていくお金を引く。それだけです。
今はフリーランスで経理代行の仕事をしていますが、「資金繰り表を作りたいけど、どう始めればいいかわからない」という相談をよく受けます。この記事では、私が経理時代に実際にやっていた方法をベースに、エクセルで資金繰り表を作る手順をできるだけわかりやすく書いていきます。
目次
そもそも資金繰り表って何のために作るのか
損益計算書だけでは見えない「現金の動き」
会社の数字を見るとき、多くの経営者が気にするのは売上と利益です。それ自体は当然のことなんですが、損益計算書(P/L)だけ見ていると、ひとつ大きな落とし穴があります。
「利益が出ている=現金がある」ではないんですよね。
たとえば、4月に100万円の売上があったとします。でも取引先との契約で入金が60日後なら、実際にお金が入ってくるのは6月。その間にも家賃や人件費は毎月出ていく。この「時間差」が見えないのが損益計算書の弱点です。
資金繰り表は、この現金の動きを月単位で追いかけるためのツール。「来月末に手元にいくら残るか」を把握するために作ります。
黒字倒産を防ぐための早期警報装置
「黒字倒産」という言葉を聞いたことがある方も多いと思います。利益は出ているのに、手元の現金が足りなくて支払いができなくなり、結果的に倒産してしまうケースです。
中小企業庁の資料でも、中小企業の倒産原因として「販売不振」に次いで「既往のしわ寄せ(赤字累積)」が挙げられていますが、実態としては資金ショートが直接の引き金になることが少なくありません。
資金繰り表を作っていれば、「3ヶ月後に現金が足りなくなりそうだ」ということが事前にわかる。早めに手を打てる。私が経理時代に何度か助けられた場面があります。ある月、大口の取引先からの入金が予定より2週間遅れるという連絡が入ったとき、資金繰り表があったおかげで「今月末はギリギリだけど、来月は問題ない」とすぐに判断できました。
銀行融資の場面でも必要になる
もうひとつ、実務的に重要なポイントがあります。銀行に融資を申し込むとき、ほぼ確実に「資金繰り表を出してください」と言われます。
銀行が見たいのは「貸したお金が計画通りに返ってくるか」です。だから、今後数ヶ月〜1年の入出金予測と、過去の実績データの両方が必要になる。
中小企業基盤整備機構のJ-Net21でも、資金繰り表は経営管理だけでなく金融機関との対話ツールとして重要だと説明されています。普段から作っておけば、いざ融資が必要になったときに慌てずに済みます。
資金繰り表の基本構造を理解する
計算式は「前月残高+収入−支出=月末残高」
資金繰り表の根っこにある計算は、本当にシンプルです。
前月末の現金残高 + 今月の収入 − 今月の支出 = 今月末の現金残高
これだけ。家計簿と同じ発想ですね。ただし、会社の場合は収入・支出の項目が多いので、それをきちんと分類して記録する必要があります。
3つの収支区分(経常・非経常・財務)
収入と支出は、大きく3つに分けて管理します。
| 区分 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 経常収支 | 毎月発生する本業の収支 | 売上入金、仕入支払、人件費、家賃、光熱費 |
| 非経常収支 | 不定期に発生する収支 | 設備購入、固定資産売却、法人税の支払い |
| 財務収支 | 借入・返済に関する収支 | 銀行借入、借入金の返済、利息の支払い |
経理時代に先輩から教わったのは、「まず経常収支がプラスかどうかを見ろ」ということでした。本業で稼いだお金が出ていくお金を上回っていれば、基本的にはOK。逆に経常収支がマイナス続きだと、借入で凌いでいるだけの状態なので根本的な対策が必要になります。
実績と予測の2種類がある
資金繰り表には2つの使い方があります。
- 実績資金繰り表:過去の実際の入出金を記録したもの
- 予測資金繰り表:今後の入出金を予測したもの
実務では、過去数ヶ月分の実績と、今後3〜6ヶ月分の予測を1枚のシートにまとめることが多いです。実績を参考にしながら予測を立てる、というのが基本の流れ。私も毎月、前月までの実績を確定させつつ、先3ヶ月分の予測を更新していました。
エクセルで作る資金繰り表の具体的な手順
ステップ1:必要な書類を手元に揃える
資金繰り表を作る前に、まず以下の書類を用意します。
- 月次試算表(損益計算書・貸借対照表)
- 現金出納帳
- 預金出納帳(通帳のコピーでも可)
- 売掛金の入金予定一覧
- 買掛金の支払予定一覧
全部きれいに揃っている会社ばかりではないと思います。私が経理代行で訪問する先でも、出納帳がなくて通帳と領収書の束だけ、ということはあります。その場合は通帳の入出金履歴から拾っていけば大丈夫です。
ステップ2:フォーマットを設計する
エクセルで作る場合、レイアウトはこんな感じです。
- 縦軸(行):収支項目を並べる
- 横軸(列):月を並べる(4月、5月、6月…)
各月に「予測」と「実績」の2列を設けておくと、予実管理ができて便利です。ただ、最初からそこまでやると面倒になるので、まずは1列(予測だけ、または実績だけ)で始めるのでも問題ありません。
ちなみに、日本政策金融公庫のサイトで無料テンプレート(簡易版・詳細版)がダウンロードできます。ゼロから作るのが面倒な方は、これをベースにカスタマイズするのがおすすめです。
ステップ3:固定費から先に埋める
フォーマットができたら、数字を入れていきます。ここでのコツは、毎月ほぼ確実に出ていく固定費から埋めること。
- 家賃
- 人件費(給与・社会保険料)
- リース料
- 借入金の返済額
- 通信費・保険料
これらは金額が毎月ほぼ同じなので、先に入れてしまえば「最低限、毎月これだけは出ていく」という金額が明確になります。私はこれを「ベースライン」と呼んでいました。このベースラインを下回らないだけの収入があるか、というのが最初に見るべきポイントです。
ステップ4:変動する収支を記入する
固定費を埋めたら、次は月によって変わる項目を入れていきます。
収入側では、売掛金の入金予定が中心です。請求書を出した相手ごとに、入金予定日と金額を確認して記入します。新規の案件や季節変動がある業種の場合は、過去の実績も参考にしながら予測を立てます。
ここでひとつ、私がやっていた工夫を紹介します。取引先ごとに「支払いサイト」をメモしたリストを別シートに持っておくんです。A社は末締め翌月末払い、B社は末締め翌々月10日払い、といった具合に。こうしておくと、売上が確定した時点で入金月が自動的にわかるので、予測が格段にラクになります。
支出側では、仕入や外注費など、売上に連動して変動する費用を入れます。季節的なイベント(賞与月、決算月の税金支払いなど)も忘れずに。私は7月と12月の賞与支払い、3月の決算関連の税金を「忘れがちな大型支出」として毎年メモしていました。
最後に、SUM関数で収入合計・支出合計を出し、前月残高に加減算すれば月末残高が自動計算される仕組みにしておきます。エクセルの条件付き書式を使って、月末残高が一定額を下回ったらセルが赤くなるように設定しておくと、危険なサインを見逃しにくくなります。
私が実際に使っていたフォーマットの項目一覧
参考までに、経理時代に使っていた資金繰り表の項目を載せておきます。業種や規模によって項目は変わりますが、ひとつの例として見てください。
収入の部
| 項目 | 補足 |
|---|---|
| 現金売上 | 店頭での現金回収分 |
| 売掛金回収 | 請求書発行後の入金 |
| 手形期日入金 | 受取手形の満期入金 |
| 前受金 | 先に受け取る着手金など |
| その他収入 | 雑収入、保険金など |
支出の部
| 項目 | 補足 |
|---|---|
| 仕入(現金) | 現金払いの仕入 |
| 買掛金支払 | 翌月・翌々月払いの仕入代金 |
| 人件費 | 給与・賞与・社会保険料 |
| 家賃 | 事務所・倉庫の賃料 |
| 水道光熱費 | 電気・ガス・水道 |
| 通信費 | 電話・ネット回線 |
| 広告宣伝費 | チラシ、Web広告など |
| 支払利息 | 借入金の利息分 |
| 租税公課 | 消費税、固定資産税など |
| その他経費 | 交通費、消耗品など |
財務収支の部
| 項目 | 補足 |
|---|---|
| 借入金入金 | 新規借入による入金 |
| 借入金返済 | 元本の返済 |
| 設備投資 | 機械・車両の購入など |
| 固定資産売却 | 不要設備の売却収入 |
全部の項目が必要なわけではありません。自社に関係のある項目だけ残して、使わないものは削除すればOKです。
作成時に気をつけたい3つのポイント
売上の計上月と入金月を混同しない
これ、資金繰り表で一番やりがちなミスです。
損益計算書では「売上が発生した月」に計上しますが、資金繰り表では「実際にお金が入ってくる月」に記入します。取引先によって支払いサイトは違うので、契約書や過去の入金履歴を確認して、正確な入金タイミングを把握しておく必要があります。
前職で経理を始めたばかりの頃、私もこれをやらかしました。売上が立った月にそのまま収入として記入してしまい、翌月の残高がまったく合わない。先輩に「入金ベースで書くんだよ」と教えてもらって、ようやく腑に落ちた記憶があります。
予測は保守的に。甘い見積もりが一番危ない
予測の資金繰り表を作るとき、収入は少なめに、支出は多めに見積もるのが鉄則です。
「たぶん来月には入金されるだろう」「この経費はかからないかもしれない」という楽観的な前提で作ると、実態とズレたときに一気に資金ショートのリスクが上がります。
私は予測を立てるとき、確度の高い収入(契約済みの案件の入金など)と、まだ不確定な収入(商談中の案件など)を分けて考えていました。不確定なものは金額を半分にするか、計上しない。このくらい保守的にやって、ちょうど良いバランスでした。
月1回は実績と予測を突き合わせる
資金繰り表は作って終わりではなく、定期的に見直すことで精度が上がります。
月が終わったら、予測と実績を比較する。ズレがあれば原因を確認して、翌月以降の予測に反映する。この繰り返しで、だんだん予測の精度が上がっていきます。
私の場合は毎月5日前後に前月分の実績を確定させて、そのタイミングで先3ヶ月の予測も見直すルーティンにしていました。最初は予測と実績の差が大きかったんですが、半年くらい続けるとかなり正確に予測できるようになります。
マネーフォワードの解説記事でも触れられていますが、予測と実績の差異分析が資金繰り管理の精度を高める上で重要なステップです。ズレが大きかった月には「なぜズレたか」をメモしておくと、翌月以降の予測精度がぐっと上がります。
続けるコツは「シンプルに保つこと」
最初から細かく作りすぎない
資金繰り表で一番もったいないのは、「完璧なものを作ろうとして、結局続かない」パターンです。
項目を30も40も設けて、細かく分類して…とやると、毎月の更新が面倒になって3ヶ月で放置、ということになりがちです。経理代行の現場でもよく見かけます。
最初は10〜15項目くらいで十分。慣れてきて「もう少し細かく見たいな」と思ったら、そのときに項目を追加すればいいんです。たとえば最初は「その他経費」にまとめていたものを、金額が大きくなってきたら「広告費」「交通費」と分ける、という進め方がおすすめです。
ちなみに、更新のタイミングもガチガチに決めなくて大丈夫です。理想は毎月ですが、「月末に10分だけ」でも立派に機能します。私が経理代行で支援しているクライアントの中には、月に1回、通帳を見ながら15分で終わらせている方もいます。それでも「資金繰りが見えるようになった」と言ってもらえます。
無料テンプレートを活用する
ゼロから作るのが大変なら、既存のテンプレートを使うのが近道です。
- 日本政策金融公庫:簡易版と詳細版の2種類あり。銀行提出にも使える形式
- 各会計ソフト(freee、マネーフォワードなど):ソフト内で自動生成できる機能あり
テンプレートをダウンロードしたら、自社に合わない項目は消して、必要な項目を足す。それだけでオリジナルの資金繰り表が完成します。
まとめ
資金繰り表の仕組み自体は、前月残高に収入を足して支出を引くだけ。難しい計算は必要ありません。
大事なのは、完璧を目指さずにまずシンプルな形で始めること。月に1回、15分でも更新する習慣がつけば、「来月お金が足りなくなりそう」という事態を早めにキャッチできるようになります。
経理時代、この表があったおかげで助かった場面は何度もありました。エクセルとちょっとの手間で作れるので、まだ作っていない方はぜひ試してみてください。